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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
あれこれと考えている間に、須王が昨日の手島さよりのことを口にした。
「て、手島さより!? 知ってるよ、俺も! 世界の手島だろう、俺なにかの特集を見た」
「私も知っているわ。かなり昔だけれど、カーネギーホールで見た」
同じ「見た」でもかなり違うけれど、あたしは昨日連れていって貰ったあの場所で、手島さより本人と会話したことを自慢した。
そして付け加える。
「ゾンビだったけどね」
「「ゾンビ!?」」
ふたりの反応が面白いけれど、すぐさま須王が訂正する。
「実際は、ゾンビのようになるドラッグだ。恐らく、AOPの亜種。海外から流れ込んで来たものか、或いは逆輸入なのか」
そして須王は、昨日起きたことを説明する。
棗くんから言葉が出ないのは、事前に須王から聞いていたからだろう。
「禁断の柘榴は、音楽を中心に汚染している。音楽者を玩具にして、ぎらついた欲を叶えるための。キーワードは音楽だ。……昔も今も」
ミラーに映る須王は、無感情の仮面を張り付かせていた。
こうした彼の顔は決まって、それが育った組織エリュシオンとの関連を疑っている時だ。
そしてまた、バックミラーに映る棗くんの顔も同じく。
「柘榴は多岐に渡っている。朝霞が口にしたのも柘榴、喫茶店で銃を乱射した黒服の記憶を消したのも柘榴、裕貴の家に乗り込んだあの女が手にしていたのも、〝天の奏音〟の道具もそう。遥が纏うのも柘榴。十悪の見立てに利用されたのも柘榴。他には……」
甘い甘い匂い。
まるで小さい時にお父さんから貰っていたあめ玉のような――。