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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
だとすれば〝天の奏音〟は?
女帝や小林さんを拉致した朝霞さんや、それを知らせた遥くんの立ち位置は?
……しかし朝霞さんは意識不明のまま。
遥くんは……ひとりが入院していて、ひとりは消え去った。
だとすれば、どんな奴らが関わっているのかを知っているだろう人物は――。
「……手島さよりから電話は来たの?」
裕貴くんの問いかけに、あたしは首を横に振る。
「一応、明日までなんだけれど……」
手島さよりは、地獄から抜け出したいと電話をくれるだろうか。
そして彼女が秘める情報から、なにかこのもやもやとして気持ち悪い状況を変えることは出来ないのだろうか。
「遥くんからは連絡来た?」
裕貴くんは頭を横に振る。
「LINE、既読すらつかないよ」
新しい遥くんは、本当に現れるのだろうか。
天使のような屈託ない笑顔で、「また会えたね」と。
……あたしは、そんな奇跡を信じてみたい。
「……あ、そうだ。裕貴くん、奈緒さん。後で、須王のお歌聞かせてあげる。動画ばっちりだから」
「柚!」
後部座席組にしかわからない小さい声で言っていたのに、須王は地獄耳だ。
「上原サン。後で私にも送ってね」
「了解」
「棗、お前も乗らなくていいから!」
……そして棗くんも。
笑い声が聞こえればほっとする。
だけどそれと同時に、笑っていてもいいのか憂慮する。
笑える今があるのは、誰かの犠牲があるからだと思えば。