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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
「やっぱりイケメン課長と言えば、シークレットムーンの香月課長とか結城課長とかで、有能な部下を従えるのは、鹿沼さんみたいな主任さんだよね……。そういえば、社長さん退院出来たんだろうか。どう思う、ユッカちゃん?」
「柚……っ、溢れてる溢れてる!」
女帝の声に我に返ると、あたしは大鉢の観葉植物……ユッカ・エレファンティペスに、ついついじょうろで水をやりすぎてしまっていたようだ。
会社に着いて、自分の立ち位置を女帝と確認したあたしが、まずしたことは――観葉植物に水をやることだった。
あんなに艶々していた緑の葉っぱが、色褪せていて、可哀想な有様だったからだ。
環境がよくないのか、それとも単純に空腹だっただけか。
新たな体制のエリュシオンで、観葉植物に目を向けてくれる社員はいないらしい。
……かつてあたしを馬鹿にしながら、今は予備のじょうろを手にして一緒に水やりをしてくれている、女帝を抜かして。
「植物だけでも活き活きとしていてくれないと、本当に冥府に来たようで、憂鬱になりそうね」
女帝のぼやきに、あたしも頷いた。
「奈緒さん、美保ちゃんからなにかメッセージ残ってました?」
「ないし。メールもなにもかも繋がらない」
女帝と一緒に受付をしていた谷口美保ちゃんは、真実を明らかにしないまま、自己都合で退職したらしい。
罪悪感なのか、もっと別の意図があるのか。
そんな簡単に辞めないでよ……。
しゅんとしながら水やりを終えて、女帝と席に着く。
女帝は、エリュシオンにおける初事務ということでなにか嬉しそうだ。
絶対女帝って、受付嬢というより、キャリアウーマンの方が好きそう。
両親の肩書きと美貌のおかげで、ただの結婚への腰掛けでエリュシオンに来たとでも軽んじられていたのだとしたら、可哀想だ。