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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice

「で、でもよ? 遥くん以外にすれば、今から鍛えられるわけで……」

 なにせ1ヶ月で完成しなければならないのだ。

 拘りはわかる。
 あたしも、遥くんがいい。

 だけど、それは時間があったらのこと――。

「無理だ」

 須王は嘲笑うように、口元を歪ませて言った。

「俺にHARUKAの……あの歌声を引き合わせたのは、既に誰かの思惑だったからなのかもしれねぇ。だったらそれに乗ってやる。そう思うほど、今の俺のビジョンは……HARUKAを中心に展開している」

「……っ」

 須王からしっかりとした意思を聞いたのは、初めてだったかもしれない。

 それくらい彼が、遥くんもプロデュースしたいと言うのなら――。

「遥くんを守ろう」

 あたしは強く頷いた。

「……反対しねぇわけ?」

「したところで聞く須王じゃないし。それに、あたしも……遥くんのあの意思は尊重したいの。一緒にやりたかったという、あの意思を。まあ、方法は別として、あの遥くんの意思を新しい遥くんも引き継いでくれるなら、だけど」

 須王は笑った。
 くつくつとしたものだったけれど、それは満足そうに。

「三芳、お前の意見は?」

 女帝は意見を求められるとは思っていなかったみたいで、びっくりした顔をしたけれど、こう言った。

「遥がやりたいというのなら、私も遥がいいと思います。どんなワケありでも、あの天使の歌声は、私も感動してしまうものだったから」

「……そうか。だったら、曲を書き直す」

「うん。……って、ええ!? 皆、今ので練習しちゃっているじゃない!」

「あれは、HARUKAを除いた音楽だ。HARUKAが混ざれば……化学反応を期待するのなら、今のままじゃいけねぇんだよ。HARUKAの歌声が、曲を壊すかもしれないから」

「壊さないって。今のでもとっても素敵なんだから……」

「素敵なのと完成度は違う。俺は妥協したくねえんだ。……そうだな、保険にしておくか。HARUKAが現れたら、新しいものに。現れなかったら今のものに」

 ……ごめんね、裕貴くん、棗くん、小林さん。
 今ですらスパルタ合宿に辟易していただろうに、同じレベルで練習しなければいけない曲が、また増えるみたい……。

 それでも、彼らならやり遂げそうな気がするのも確かだ。
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