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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
 
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 あたしと女帝を含めた企画推進部プロモーション課は、須王が指揮を執る新HADESプロジェクトのボーカル獲得のために、午後は外回りのち直帰――ということで、お昼にエリュシオンを出た。

 ビルの前にアウディをつけているのは、長い髪をひとつに束ねた棗くん。
 アウディに寄りかかるようにして腕組みをして立つ姿は、格好良い女性モデルのよう。

 お召し替えをしたようで、ラフだった姿からぱりっと糊が利いたスーツへ。
 首にはスカーフを巻き、すれ違う人達の視線を奪っているようだ。
 
 いつ見ても、これが男の子なんて信じられない。
 激しい曲に合わせて身体や頭を揺らし、ベースをかき鳴らす姿は、この美人のお姉様からはまるで想像出来ないし。

 凄惨な過去を持ち、現職は超エリート。
 今は行動を共にしているけれど、国内外問わずに飛び回っているらしい忙しい棗くんを、あたし達、私用に使っていないかしら。

 罪悪感で胸がズキズキするあたしの前で、須王は尽くされて当然という王様顔で、特に感動もなく助手席に乗り込んだ。

 そして棗くんも、至っていつも通りに運転席へ。

 ……本当にこのふたり、自他共に公認の亭主関白夫婦みたいだよね。

 そんなことを思いながら、ただの付き人と化したあたしと女帝は、後部座席に乗る。

 車が静かに走り出すと、棗くんが言った。

「……結果が出たわ。手島さよりのクスリ……ポムは、須王の読み通りAOPの主成分が入っている」

 あたしは身を乗り出して、棗くんの話に聞き入った。
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