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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
「それが改造され、海外の危険指定となっている合成ドラッグのα-PVP成分に似て非なる物質……、α-AOPが検出されたわ。症状は、強度の依存性と精神障害、極度の肉体強硬」
「随分と結果が出るのが早いな。未知なるドラッグではなかったわけだ?」
須王はシニカルに笑う。
「わかっているんでしょう。裕貴ら学生に蔓延しつつあるのが、そのポム……α-AOPの簡易版ドラッグ。どうも、子供受けしそうな柘榴風味のキャンディみたいね。セックスが盛り上がるという噂の」
柘榴風味のキャンディ。
――柚、アメを上げよう。
突如、あたしが小さい頃の父の声が蘇る。
……あんなアメだったら、美味しくて食べちゃうよね。
そんないかがわしい肩書きがなくても。
「それは、ポムという名前なのか?」
「いいえ。それは……エンジェルヘッド、というそうよ」
エンジェルヘッド――即ち、天使の頭。
途端にあたしの頭の中で、夜の女王のアリアの歌声が響き渡る。
九年前、須王に失恋したあたしを慰めてくれた、天使の歌声だ――。
Der Hölle Rache kocht in meinem Herzen
(復讐の炎は地獄のように我が心に燃え)
Tod und Verzweiflung flammet um mich her!
(死と絶望がわが身を焼き尽くす)
そして――天使があたしに微笑む。
『また、会えたね』
遥くんの声で。
途端、その首には赤い亀裂が入り、微笑んだまま遥くんの頭が傾き……ごろりと転げ落ちた。
その頭は床を跳ねる。
段々と遅く、そして次第に弱く、消え入るように――そう、smorzando(ズモルツァンド)に……。
「……柚?」
それは夢や幻想なのか。
それとも、遥くん経由で上野公園のピエロが刺激してきた、なにかの記憶なのか。
「柚、大丈夫? 顔色悪いけど……」
女帝の声に、強制的に現実に引き戻され、あたしは冷や汗を拭いながら大丈夫だと元気に笑って見せた。