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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
「柚、お前顔色悪いぞ? 寝てろよ」
ミラー越しあたしを覗き見たらしい、須王が心配そうな声をかけてくる。
「大丈夫よ。ちょっと酔ったみたい。お喋りして気を紛らわせていたら、顔色も元に戻るから。……で、棗くん。そのエンジェルヘッドの検査のために、裕貴くんは学校で検査させられているの?」
裕貴くんからのLINE内容は、須王が既に棗くんに流している。
「ええ。性に好奇心を抱く年頃、キャンディをなめただけでお手軽に楽しめるならと、それがドラッグだと知らずに手を出している子達も多いみたい。だからこそ、どの程度汚染されているのか、それを調べるのが表向き」
「……というと、また別の魂胆があると?」
「ええ。HARUKAが蘇った、もしくは転生したとかいう問題はおいておいて。土曜日の日、確かにHARUKAのシークレットライブが行われた。いつもは公園や屋外でライブをしていたHARUKAなのに、完全予約チケット制だったそうよ。それに参加した子達は、どうやって先に情報を得て、チケットを入手出来たと思う?」
あたしと女帝は顔を見合わせて、首を傾げた。
「流れてこない情報というものは、隠蔽したい人間の意思があるもの。同時に流される情報というものは、情報を手にした者達を使いたい……誰かの意思があるからよ。それはまるで、エデンの園でアダムとイブを唆す、蛇のように」
あたしは不意に夢を思い出す。
たくさんの天使の頭を養分にして生えた、大きな樹。
そこには天使の実がなっていて――。
「だけど、もしも神の意志がアダムとイブを閉鎖的な環境に閉じ込めておくというものならば、蛇はその反対にある〝自由〟を教えたことになる。人間の進化にとっては、どちらの意思の方がいいものか」
エデンの園という神の箱庭に生涯囲われていた方がいいのか。
それともその外にある、危険だけれど広い世界で生きた方がいいのか。