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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
「目に見えない〝意思〟を具現化出来る方法のひとつが音楽というのなら、自らの感性に従って奏でた旋律は、意思を持つことになる。声もまた、音。此の世が意思ある音で溢れているのだとすれば、それが持つ真なる意味を正しく解読出来るのは、神もしくはそれに相応する存在でしかない。言うなれば、個々が奏でる声は、神相応の存在が作曲した音符にあたるもので、総じてそれは、天の意思である――」
須王は、棗くんが言わんとするところがわかったらしい。
「〝天の奏音〟か」
「ええ」
棗くんは頷いた。
「週末信者の娘が親に強制的に出家させられると、警察に駆け込んだそうよ。事情聴取された信者の親は、警察官に滔々と語ったみたい、公にしていない教義までね。教祖の大河原重正こそが、天の意思を聞ける唯一の人間であり、彼に近づいて天の意思を知るためには、粛々と身を清めないといけないと。さらには警察官にも入信を勧めてくる始末」
「あの大犯罪人が大出世だな」
「まったくよ。顔を見れば、尊さの欠片なんてないのに」
棗くんは言い捨てながら、ハンドルを切る。
「結局は、警察官づてで親信者が子供にHARUKAのチケットを渡したそうよ。HARUKAの追っかけをしていた娘は途端に態度を変えて親と仲良く帰っていった。警察はただの親子喧嘩で片付けたみたい」
力尽くの出家を強行していた親が、既にHARUKAのチケットを手に出来ているということに、娘を喜ばせたいという純粋な動機は見いだせない。
「それから数時間後、ライブが終わって帰路の途中、娘は強硬状態……上原サンの言葉で言えば、ゾンビになってひとに噛みついたわけね。入院先に親が来て転院させたらしいけれど、どこへ連れられたかは不明」
その先が〝天の奏音〟であるのなら――。
HARUKAのチケット一枚で、娘を拉致して出家させることが出来たとしたら、
結局は、信者である親達の予定調和ということだ。