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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
さあ、裕貴くん救出劇の始まりだ!
そう意気込んでいたあたしの耳に、棗くんの声が届く。
「……須王、病院に着いたら三人で下りて。裕貴は私ひとりで大丈夫」
「しかし……」
「そうだよ、棗くん。あたしも……」
「ぞろぞろいない方がいい。こういうのは慣れているし、必要とあれば内調の肩書きで乗り込むから。そんな時、大勢いれば怪しまれる」
「棗。私もついていくわ。運転手引き受ける」
女帝が凛とした声で言った。
……くぅ、須王の車を運転するのでもガチガチだったあたしには、この車を運転出来るとは到底言えやしない。
「早瀬さんと柚に代わって、あんたと裕貴を必ず拾ってあげるから。それくらいなら、私だって出来る。手伝いたい。……今度は私に、手伝わせて欲しい。役目が欲しい」
意思の通ったその瞳は揺るぎなく。
棗くんと須王がほぼ同時に許可を出した。
「やった」
小さくガッツポーズを取る女帝を見て、彼女も彼女なりに、なにか役に立とうとしていることを知る。
朝霞さんの拉致に甘んじ、皆に救われた女帝。
きっと思うところはあったのだろう。
あたし達は仲間だ。
だから当然、持てるだけの力を注ぎたいと……そう思うのは、きっと女帝も同じだろうだから。
あたしと須王は病院の前に降り立ち、車はすぐさま走り去る。
どうか裕貴くんの笑顔と共に、また戻ってきて欲しい。
「行くか」
須王が差し出した手を掴んで、あたしは頷く。
決意も新たに……と言いたいところだけれど、遥くんの無事を確認するだけの簡単なお仕事じゃないか。
「あたしだけでも、出来たんじゃ?」
須王の綺麗な指があたしの指の間に絡む。
その動きはエロティックで、あたしの顔が赤らんでしまう。
「……恐らく、手に終えねぇだろう。そんなところにお前ひとりでは行かせられるか」
「え?」
今、なんと?
「……直感だ。なにかある、……もしくは、なにかがいる」
ダークブルーの瞳は、なにかを見据えて細められた。