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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
*+†+*――*+†+*
須王の危機察知能力は、常人を超越している。
その彼が感じているものは、あたしの想像を超えた非常識なものだろう。
近づいていくのが遥くんの病室ではなく、まるで死刑台のような……、そんな息が詰まった感覚に、背筋のざわつきが止まらない。
チンと音がしてエレベーターの扉が開く。
「……っ!」
その瞬間、あたしは須王と顔を見合わせた。
鼻を擽ったのは――。
「柘榴の香り……!」
薄くなってはいるけれど、それは明らかにあの甘い匂いだった。
入院病棟が、柘榴の芳香剤やその香りがする薬品を取り入れない限り、可能性として思い浮かぶのは……、記憶障害を引き起こすAOPや、さっちゃんが裕貴くん宅にかけていたという、〝天の奏音〟の浄化剤。
そういえば――この病棟においても、その匂いは嗅いでいた。
それは、血しぶきを見せた後の遥くんの病室で。
「AOPに関連するこの香りを、病棟全体にぶちまけた奴がいるか、それとも……軟禁状態にいた遥が、運ばれたか」
……どちらにしろ、ろくでもない事態が待っていそうだ。
エレベーターのドアが、開閉を繰り返しているのを見ながら、あたしの緊張感もピークに達しそうだ。
「……柚。頼みがある」
「なに? なんでもあたしに言って!」
須王に頼られるのが嬉しいあたしは、どんと胸を叩いた。
「エリュシオンのボールペン、欲しいんだけれど」
「……え?」
今、なんて?