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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
「ボールペン。社名が入っていた頒布品の。会社でお前、使っていただろう」
「あるけれど……」
あたしはバッグの中から、ペンケースを取りだし、社名が刻印されたボールペンを取りだした。
頒布品として作られたこれは、大きい、太い、重い、そして外装が派手な蛍光色という四重苦を抱えてはいるものの、とても書きやすい。
総務部長が大量に発注したはいいけれど、得意先に人気がなかったため、別のものを作ることになった。そのため倉庫の中で段ボールが山積みになっており、社員用の備品として使い放題だった。
今の新しい社員達がそれを知っているかどうかはわからないけれど、古株のあたしと女帝は、今日もちゃん新しいのを手に入れていた。
四重苦なのに長時間書いても手が疲れないし、綺麗な字に見えるんだもの。
さらにもう一本、字にコンプレックスを持っている須王用に貰ってきたりしてる。
……だけど、それがなに?
柘榴の匂いがしているこの状況で、このボールペンが役に立つの?
「俺にくれ。あるだけ」
「それは別にいいけど。会社にいけばたくさんあるし。でも突然なんで?」
超絶美形の男には不似合いな、不格好なボールペン。
「……お守り」
二本受け取った須王が、にやりと笑う。
「え、これ魔除けの効果もあったの!?」
どこからどう見てもただのボールペンだけれど。
「そ」
すると須王はそれ以上の理由は答えず、胸ポケットに挿した。
一体なんなのだろう。
なにか署名(サイン)をしようとしているとか?
ひとにサインを書かせていた男が?
「行くぞ」
「……うん」
よくわからないまま、あたしは須王に手を引かれながらエレベーターを出た。