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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
しんと静まり返っている病棟。
近くの休憩所からテレビの音がしているくらいで、人の声はしない。
「二種、匂いがあるな」
「柘榴以外にってこと?」
「いいや。柘榴の重ねづけのような。方向によって、匂いが強い弱いがある」
……あたしの鼻には、柘榴の匂いだけ。オンリー。
須王は調香師にでもなれるんじゃないかしらと思いながら、遥くんの病室に向かっていくと、面会謝絶の札がかかったままのドアが見えた。
須王がノブを回そうとするが、手を止めた。
「……ドアが開いている。それに……やはりこの部屋から、柘榴の匂いが洩れているな」
……ということは。
「また、血の臭いを消したのかもしれねぇ。でも病棟全体に柘榴の匂いが漂っているとなれば、今回はそれだけじゃ……」
途端、須王は厳しい顔をしてあたしに言う。
「柚。五秒数えろ。ドアを開けるから」
「わかった!」
さあ、柚!
あたしも棗くんみたいに、須王と息をぴったり合わせるんだ。
「五」
あたしは真剣に、声音を震わせながら、ゆっくりと数を数える。
「四」
しかし――!!
なんと須王は、あたしがまだふたつしか数を数えていないのに、思いきりドアを開けたのだった。
するとドアは、ドコッと重い音をたてて、なにかの呻き声を発した。
誰かひとがいたの!?
そう思っている間にも、ドアの向こう側の影は、白衣を着た見知らぬ医者の姿となって、凄まじい早さであたし達の目の前に現われた。
そして足を踏み込むと同時に、およそ医者らしからぬ殺気を放ち、振り下ろした手を手刀――親指以外の指を伸ばしてくっつけた形――にして、ぶんと空を切るようにして、須王の喉元を目がけた。
「須王!?」