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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
 
 しかしそれを首を傾けるだけのような最小限の動きで避けた須王は、半回転するようにして、なにかを医者の腕に振り下ろした。

「くぅぅぅぅぅぅ!!」

 男の右腕に、深々と突き刺さっているのは、エリュシオンのボールペン。

 念のため言えば、あのボールペンは、ただの筆記用具だ。

 ボールペンを握った手に、さらに力を込めた須王。
 同時に男の声が苦悶のものとなり反り返る。

 そしてもがくように反対の手で須王の首を絞めようとしたが、須王は片膝をつくような低い姿勢になってそれをかわすと、反対の手でも既に持っていたボールペンを、男の太股に突き刺していたのだった。

 ……しつこいようだけど、もう一度言いたい。

 ボールペンは――筆記用具です。

 男はくぐもった声を上げながら、ボールペンを突き刺したまま逃げ出した。

「……ボールペン、抜けばいいのに……」

 などと、半ば憐憫の情を向けて見送ってしまったあたし。

 一方須王は、いつもと変わらぬ超絶美形の王様顔。
 なにひとつダメージはないようだ。

「あれは、待ち伏せしていたな。動きは素人じゃねえ」

 ……しかしビジネススーツを着ていて、あんなに動いてもびりっといかないものらしい。王様のスーツは伸縮自在な超合金でも出来ているのかしら。

 それとも度を超したイケメンというものは、そうした恥ずかしいハプニングとは無縁なのかしら。

 とか思いつつ、ふとした疑問を須王にぶつけてみた。

「……あの、須王さん」

 須王はダークブルーの瞳をあたしに向けて、首を傾げた。

「あ、あたしは……なにか役に立ったのでしょうか」

 あたしの覚悟は。
 あたしの意気込みは。
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