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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
 

 誰のせいでと胸がきりきり痛む。

 だけどあの言葉に、揶揄めいたものは感じられなかった。

――お前も、楽しく参加をして貰いたいんだよ。

 あたしが出来ない音を、細かく割り当てたシーケンス。
 
――同情じゃねぇよ、なんのために俺が音楽やってると思ってる。

 なんで音楽をしているの。
 なんであたしに弾かせようとするの。 
 
――殻から出てこい。……俺が、そこから助けてやるから。

 なんで。
 なんで。

 だけど、あたしにもわかることがある。

 あたしは指が動かなくて、ピアノを人生から抹消した。
 後日とはいえ、シーケンスのことは知っていたのに、弾いてみようとも思わなかった。
 指が動かないからと、見向きもしなかった。

 さほどクラシックが好きだったわけじゃない。
 ピアノの音楽が好きだったというのに、あたしはこの指でも出来る鍵盤音楽を必死に模索してこなかった。

 ハナから諦めていた。
 もう、あたしは音楽を奏でる側にはいれないと。

 諦めた人間が、音楽のなにがわかるって?
 ただの理想論を掲げて、ピアノを弾けなくなったという辛さを自慢して誤魔化していたんじゃないか?

 そんな人間が、ひとの心を打つような至高の音楽を作れる?
 今でも苦しみから逃げている人間が、今も苦しんでいるひとの心を打てる?

 本当に音楽が好きなら、なぜこの指でも出来る戦い方を考えてこなかった?

 あたしは、悲劇のヒロインになっていたのでは?

――殻から出てこい。

 今、あたしに出来ること――。

「全部理解しろとは言わない。だけどさ、あいつが嫌いでもあいつの音楽が好きなら、せめてあいつの作ろうとする音楽は嫌わないで……あああああ、柚、ごめんいいすぎた。だからそんなに泣くなって。柚、悪かった! だから泣き止んでよ、柚……っ」

 




 数分後、早瀬が戻ってきた。

「わっ、なんだ!?」

 泣いて化粧がぐちゃぐちゃになった顔を見られまいと、あたしはうさちゃんの姿。頭も胴体もばっちり、キュートなうさぎ。

 部屋の中にいるうさぎに、早瀬は驚いたらしい。
 
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