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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
別に驚かせるつもりはなかったけれど、いつも落ち着き払っている早瀬の慌てた声に、ちょっと胸がすっとした。
深呼吸をして、一気に息と共に言葉を吐き出した。
「シンセの使い方、教えて……くれだぴょん!」
ガ○スの仮面さながら、うさぎの仮面。
あたしは、素直なうさぎになる――。
「さっきは大人げなくて、ごめんだぴょん!」
ぺこりと重い頭を垂らした。
「……お前、上原……?」
「違うだぴょん! あたしはウサ子だぴょん、りすぴょん」
「り、りす?」
あたしは僅かな視界から、りすの着ぐるみを指さした。
「りすぴょんは、あれを着るだぴょん!」
「……裕貴」
「な、なに?」
「なぜこのいらっとする状況になる前に、あいつを止めなかった」
「か、可愛いだろう、柚ぴょん。キュートでラブリーで……」
「あ゛!?」
「ひっ」
「りすぴょん、可愛いだぴょん。これでお揃いだぴょん」
「……お揃い……」
「だけどその前に、シンセの使い方教えるだぴょん!!」
あたしはうさぎになりきって、ぴょこぴょこ跳ねた。
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「あのさ、うさぎがぴょんならりすはなんて言うの?」
「知らねぇよ。あのシンセ弾いてるうさぎに聞けよ」
「あれはウサ子だけど、あんたはりすだろ?」
「違う!!」
「着てるし」
「胴体だけだ! 仕方ねぇだろ、じゃんけんで負けたんだから!」
「……柚がいつもチョキ出すの見抜いていて、パーだしたよね? そこまでお揃いでいたいの? なに、おねだりされたから?」
「……っ、ち、ちが……っ」
「違うの? 顔、真っ赤だけど」
「ち、違うで……りす」
「うわ、それ被って隠す? 顔を隠しちゃう?」
「うるさいでりす!! 俺はりすでりす」
「あんたまで……。その着ぐるみって、言い方も変わる効果でもあるのか? それともそういうお年頃?」
……なにか聞こえていたけれど、あたしは必死になって鍵盤を押す練習。
本当に久しぶりの鍵盤に触れるのは、妙な高揚感があった。
今まで諦観して拒否していたはずだったのに、なぜか得も言われぬ歓喜に満ちていることに気づき、胸が苦しくなった。
早瀬と演奏した九年前を思い出して――。