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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
須王の手で目を塞がれているあたしは、呼吸を引き攣らせた。
どうして?
だって遥くん、寝ているよね?
テンシノアタマ。
「あたし……柘榴の匂いにあたっちゃったのかな。変な、不気味な幻を見ちゃった……」
イスニスワッタテンシノアタマガ、ゴロリト……。
「ねぇ、須王。違うよね。遥くんが頭だけって言うことは……」
途端にあたしは、須王に抱きしめられた。
柘榴とベリームスクの匂いが混ざる。
しかし、生臭い柘榴の匂いは強烈過ぎて。
あたしは、口を押さえたが間に合わず、須王を突き飛ばすとその場で吐いてしまった。
「柚、大丈夫か?」
苦しい中で思うのは――また吐いた姿を須王に見られているという気恥ずかしさと、そしてまた天使が死んでしまったという罪悪感だった。
そんな最中、なにかの音楽が鳴り響く。
それは電子ピアノの音色だ。
その旋律に思わず涙が零れてしまったけれど、それがなんの曲なのか、朦朧とした頭は答えを弾き出してくれない。
ただひたすら……懐かしい。
なんだっけ、これは。
あたしの記憶に刻まれている曲なのに。
ぼんやりとした視界の中で見えるのは、遥くんの頭の横にあったスマホが、アラームを慣らしていたようで、そのアラームの着信音がその曲だったようだ。
ああ、なんだろう。
九年前の天使の歌声が聞こえてくる。
Der Hölle Rache kocht in meinem Herzen
(復讐の炎は地獄のように我が心に燃え)
Tod und Verzweiflung flammet um mich her!
(死と絶望がわが身を焼き尽くす)
天使が――唄っている。
ああ、そうか。
あの時の天使が、唄っていた『夜の女王のアリア』。