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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
感動したあたしに、天使は情熱的なキスをして――そして唄ったのが、この歌だ。
名も無き、賛美歌のような曲を。
これは……遥くんの歌声かもしれない。
ああ、天使は生きているじゃないか。
遥くんだってちゃんと生きている。
誰も死んでいない。
思わず顔に笑みを浮かべたあたしの耳に、須王の声が届いた。
「瞋恚……! くそっ、遥は瞋恚に割り当てられたのか!」
薄れる視界の中、あたしは本当にぼんやりと思った。
瞋恚――それは確か、十悪のうちのひとつだと。
どうして天使が、悪なの?
そしてあたしの頭の中で、別の音楽が同時に流れる。
ベートーヴェン 交響曲第9番「歓喜に寄す」
どこに住んでいるのかと尋ねた時に、天使が唄ったものだ。
Freude, schöner Götterfunken,
(歓喜よ、美しき神々の煌めきよ)
Tochter aus Elysium,
(楽園から来た娘よ)
Wir betreten feuertrunken,
(我等は炎のような情熱に酔い)
Himmlische, dein Heiligtum!
(天空の彼方、貴方の聖地に踏み入る)
「エリュシオン……」
――……いか、……は、……なのだ。
誰かがなにかを言っている。
――エリュシオンでは、……は……。
誰?
ねぇ、あなたは誰?
――それが、柘榴の使命。
暗転(ブラックアウト)――。