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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
 

 *+†+*――*+†+*

 どろりとした漆黒色。
 汚泥のような空間を、かなり彷徨っていた気がする。

 あたしの体に触手のように絡みつく声が、悪意が、嘲笑が、あたしの中から、正常ななにかをひとつずつ壊していくような、おぞましい感覚。

――へるまふろでぃとす

 その忌み名の下に――。

「柚、しっかりしろ」

 そんなあたしを救ったのは、愛おしい声。
 それでもあたしの体は、その声に反応が出来なかった。
 
 ただ苦しい。
 体に詰めこまれた闇を吐き出すことが出来ない。

 助けを求めようと、僅かに開いたあたしの口は――。

「んんんんん!?」

 須王の唇に塞がれ、濃厚に舌を絡められた。

 途端に闇に沈んでいた体が、ぶるりと一度大きく震えた後、ぞくぞくとした慣れた快楽に浮上した。

「ちょ……んぅ、は、んんっ」
 
 ああ、あたしは――ちゃんと生きている。

 須王の不意打ちによって、息を吹き返したものの、口づけはとまらない。
 全然とまらない。
 ……むしろ暴走していく。

「ストップ!」

 内股を触る手をぱしりと払うと、須王はにやりと笑った。

「おはよう、眠り姫。目覚めのキスは、悪夢を吹き飛ばすほどに気持ちよかったか?」
「……おかげさまで!」

 ああ、小憎たらしい。

「そうだろうな。あれだけお前の体に刻み込んでいるんだ。お前は、体の方が素直だしな。すぐに反応するから」

 さらににやりと笑われた。

 彼の言うとおり、即効性があったのが悔しい。
 もっとなにか方法はなかったのだろうか。

 こんなところ誰かに見られたら……そこであたしはあたりを見回す。
 あたしは狭い密室に、須王に横抱きにされていた。

「あれ? ここ……」
「隠しエレベーター。水槽の部屋にあった。一階に直通だな。これでHARUKAは自由に外に出入り出来ることが立証された」

 やっぱりちゃんと外に通じる道は、あったんだ。
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