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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
「……遥くんは?」
思わず堅い声を出してしまったあたし。
「お前が気を失ってすぐ、外にひとの気配がして出て来た。だからあれから、五分もたってねぇよ」
「……そっか。ありがとう、もう立てる」
「別にこのままでもいいけど。街の中、これで歩いても構わないし? なんなら目覚めのキスつきで」
須王が妖艶に瞳を揺らして、ちゅっとリップ音をたててキスをする真似をしてきた。
「結構です!」
断固拒否の姿勢を見せた時に、ドアが開く。
降りようとしたあたしを制し、須王はあたしを背に隠すようにして先に出る。
しかし外には誰もいなかった。
ただ、廃棄用の段ボールが山積みになっているだけだ。
「ここから出入りしていたんだ……」
段ボールに隠されていて、外からはわかりにくい。
ここなら、完全に玄関からは死角だ。
「ここに長くいると見つかって、狙われるかもしれねぇ。棗待たずに、病院の正面から大通りに出るぞ」
「わかった」
あたし達は大通りに出た。
それでもただぶらぶらと歩いているわけではない。
須王の目は、常に周囲への警戒に光っている。
「裕貴くんは上手くいったのかな」
「まだ連絡はねぇな。まぁ棗のことだ、うまくやるさ」
「棗くんからね。ねぇ……裕貴くんに、遥くんのことを言う?」
裕貴くんがショックを受けるのは、容易に想像つく。
あんな無残な死に方を、裕貴くんに見せなくてよかったけれど、死に方を隠したところで死んだ事実は変わらない。