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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
「……言う。裕貴は男だ。それに今が異常な事態だっていうことはわかっているし、薄々わかっていたから、LINEを寄越したんだ」
須王は続ける。
「なぁ、柚、お前……瞋恚の曲を聴いて、エリュシオンと呟いたな。そして水槽を見て気を失う時に断片的に呟きが聞こえたけれど、なにかを思い出したのか?」
須王は、真剣な顔であたしを見る。
「あたしの中で、九年前の天使の頭が落ちて、男のひとになにか言われたの。どっちかを選べとか、あとは気味悪い呪文みたいの。へ……る、ま……ふ……」
「もしかして――ヘルマフロディトス?」
――へるまふろでぃとす
あたしの中で、かちゃりと音がした。
「そう、まさしくそれ! それなに? なんで須王が知っているの? 組織の一部とか?」
須王は緩やかに頭を振る。
「ギリシャ神話のひとつだ。両性具有の」
「両性具有?」
「ああ、雌雄同体とも言うが、覚えているか。水槽の中に、女の上半身をして男の下半身をした……」
今さらのように思い出して、あたしは青ざめた顔でこくこく頷いた。
「ヘルマフロディトスは確か……ヘルメスとアフロディーテの間に生まれた、十五歳の少年だ。彼に惚れたのが泉の妖精サルマキス。彼女の誘惑にヘルマフロディトスが乗ってこないため、サルマキスは無理矢理彼に抱き付いて、神々に懇願したんだ。彼とひとつになりたい、永遠に結びつけてくれと。その願いが叶ったために、彼は両性具有になった。まあ男の体に、女の体が無理矢理溶けこんだ感じだな」
「……っ」
「それで彼は我が身を呪い、彼も神々に懇願した。どうか自分だけではなく、この泉の水を浴びたものは、自分と同じような両性具有にしてくれと」