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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
初めて聞いた話だった。
だが、それを聞き終わると頭がズキズキした。
なぜ、遥くんと同じ顔をした、天使の頭が落ちた幻を見るのか。
そしてなぜ、その時に両性具有に関連する言葉を耳にした気がするのか。
「泉の水……確かにあの水槽には水が張って、それに触れていたのは両性具有だったが……。あの水がなにか特殊のものなのか? それとも特殊なのは機械か?」
もしもあたしがちらちらと見るものが、本当に体験したことだったら。
遥くんの無残な姿は、その記憶に起因するのだろうか。
「ヘルマフロディトスの呪いよりも、なにか大それたものを感じるな。両性具有をあれだけ作ることで、なにをしようとしていたんだ? その意味は……」
遥くんが頭になってしまったのは、あたしの……せい?
――その天使は、お前が……たのだ。
どくん。
不穏な心臓の音がした。
「ねぇ、須王。あたしが昔……なにかを見ていたから、遥くんが殺されてしまったの? HURUKAも最初から、あたしに昔のことを意味ありげに言ってきていた。ねぇ、もしかして……あたしのせいで、遥くんはあんな姿に……」
「落ち着け柚」
「落ち着くことなんて出来ないよ。あたしのせいだとしたら、あたしどんな顔をして裕貴くんに会えば……」
「柚」
須王はあたしの頬を片手で掴んで、あたしの視線を自分に合わせる。
「あんな頭だけでは、あれが俺達が見た遥なのか、裕貴が幼馴染みだと思ってきた遥なのか、わからねぇ」
「でも……上野公園で見たような、フェイクではないじゃない。あんなに血が出ていたんだから。それに須王だって、柘榴に混ざった血の匂いを、感じたでしょう?」
「お前は、遥の血の臭いがわかるのか?」
須王は実に落ち着いた声で、そう尋ねた。
「あの鉄の臭いで、遥のものだとお前にはわかるのか?」
憂えたダークブルーの瞳が優しく細められる。
「どうだ?」
「……わからない」
あたしは素直に認めた。
血の臭いで個性なんか感じられない。
あたし、ヴァンパイアでもないんだし。