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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
「だろう? いいか、俺達は遥そっくりの頭と、大量の血、そして水槽の中の遥そっくりな両性具有を見て、血の臭いと柘榴の匂いを嗅ぎ、十悪のひとつの音楽を耳にしただけだ。五感のうち三つは使ったが、俺達が感じたものが、間違いなくあの遥だという確証はなにもないんだ」
「……っ」
「柚。あの遥には十悪のうちのひとつの瞋恚が割り当てられていた。今までと同じパターンにで行けば、他の奴らは皆殺されておらず、俺達の発見時には生かされていた。苦痛を与えられていても。その後、行方不明にはなっていてもだ」
「待ってよ。だったらあの頭だけで、遥くんは生きていたということ!?」
あたしはぞっとした。
頭だけで生きていられるのなら、ゾンビじゃないか。
「そこまではわからない。あの頭が本物かどうかも触って確認していない。水槽は幾つか空だったから、あの中の一体の頭だった可能性もある。……オリジナルは死んだと思わせるための偽装かもしれねぇ。となれば、オリジナルはどこに移送されたかということになるが」
「……っ」
「状況証拠だけで、真実だと決めつけるな。向こうの思う壺だ。俺達が相手にしているのは、狡猾な奴らだ。俺ら以外、すべてを疑ってかかれ」
ああ、須王はそうやって生きてきたのだろう。
棗くんを信じ、それ以外は敵の手の者かと疑い、欺き。
言われてみれば、確かにあたし達が会った遥くんだと断言出来る証拠はない。
遥くんの顔は今までだって、ひとつだったわけではないのだ。
それがまかり通っていた、不可解な現実だった――。
もしオリジナルが生きていたら、本当に趣味が悪いサディストだ。
だけど、今はその可能性に縋りたい。