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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
「さんきゅ。今、そっちに向かっているから。頑張ってくれ」
須王は電話を切ると、ぼすんと後部座席のシートに頭をつけた。
「棗くん、回復するといいね……」
「ああ。最近発作がなかったから、完全に油断していた。しかしなんで突然、発作が強く出たんだ?」
「電話……とか? 奈緒さん、かかってきた電話の直後だって言ってたよね」
須王は細めた目を鋭くさせた。
「昔の……関係者からか?」
即ち、棗くんが深刻なトラウマを植え付けた、組織関係者。
それは今あたし達が相手にしている新生エリュシオン……?
そうだとしたら、どこまで卑劣なんだろう。
どこまで棗くんや須王を苦しめるのだろう。
この平和な日本で、一部の集団が。
空気が重くなったところで、窓を見た須王が突如ドライバーに向けて、声を上げた。
「おい、こっちは逆方向だぞ!?」
え!?
すると、車のスピードがぐんと上がる。
そして、ドライバーからは歌詞なき歌声が――。
「……この旋律は、瞋恚……!?」
その旋律は段々と転調していき、高くなっていく。
男の声とは思えない、まるでヤカンが沸騰した際に鳴るホイッスルのように。
どう見てもおじさん運転手。
彼がこんなに高い声を出せるとは考えにくい。
だとすれば、なにか細工がなされているのだろうか。
聞いているだけで喉が痛い。
まるで黒板を爪で引っ掻いている音のような、不快さが強まっていく。