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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
声を振り絞るために、運転手がさらに仰け反る。
声帯に負担をかけた歌い方で、完全に運転は放棄だ。
「このままでは、やばい!」
須王が声を上げて、後ろから口を押さえようとした瞬間、なにかが裂けたような音がした。
そして、喉から鮮血がほとばしった。
「きゃああああああ!!」
あたりを赤く染める血が、運転手の顔も侵蝕している。
運転手は、時折血に咽せながらも、歌をやめない。
それは……ホラーだった。
真紅色。
顔。
それは、無残な遥くんの頭を彷彿させる。
違う。
遥くんじゃない、しっかりするの柚!!
あたしはほっぺをパンパンと叩いて、現実逃避しそうな意識を留めた。
しかし真の恐怖は、その真紅色だけではない。
運転している人間の意識がなくなっているのだ。
「だったら――車は!?」
そのことに気づいた時には、須王は助手席に体を滑り込ませていた。
横からハンドルを操作して、暴走車を制御している。
よかった……わけではない。
日本には、信号というものがある。
いかに運転技術が優れていても、周囲が止まればそれに従うのがルール。
「す、須王、信号赤になる。赤、赤っ!! ハンドルだけじゃなく、ブレーキ、ブレーキ!!」
「わかってる!」
須王は運転手の片足を持ち上げて、多分……ブレーキと思われるものを押しているんだろうけど、全く効果がない。
「ひぃぃぃぃぃぃ!」
「道を変えるしかねぇか。柚、掴まっていろよ!」
暴走車は止まらない。
あたしの悲鳴も止まらない。
暴走車に悲鳴を上げたのはこれで何回目か、思い出すことも出来ない。