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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
 
「柚、運転席のシートを目一杯後ろに倒してくれ。こいつを椅子にして、俺が運転する」
「わわわわ、わかった!」

 あたしは後ろからカチャカチャと椅子のサイドを触る。
 するとシートを倒してしまったようで、仰向けになった噴血男を思いきり見てしまい、あたしはガタガタ震えてシートを押し戻す。

 間違った……。

「柚、遊ぶなって!」
「遊んでないから!」

 これか? これでシートが下がる?
 それに触れてみれば、勢いよくシートが下がってきて顔面衝突。
 反射的にシートを手で突き飛ばすと、須王の腕を挟んでしまったようだ。

「柚っ!」
「遊んでない、遊んでない!」

 こっちは至って真剣なんです!

 なんとか下がったシートを固定し、あたしは助手席の後ろに移動した。
 
 そして須王も運転席に移動した際に、運転手を押っつけたせいで、真っ赤な顔が突然こちらを向く。

「ひっ!?」

 あたしは猛速度で助手席のシートを下げて倒すと、助手席に滑り込んだ。

「お前、自分の時は早いよな」
「学習能力があると言って! というより須王、スピード下げてよ!」
「効かねぇんだよ、これが」

 ダンダンと、須王が足を踏みつけている音が聞こえる。
 前の座席に乗り込んだことで、危険度MAXの暴走劇を大画面で見ているかのよう。なんて迫力があるんだろう!

 当然、あたしは悲鳴を上げ続ける。

「どうすんの、どうすんの!」

 須王がハンドルを大きく切るせいで、血だらけ運転手もぶんぶんと上体を揺らしている。踊っているかのようだ。

 ……悪夢だ。

 神様、助けて。
 お願いします、助けて下さい!!
 
「須王、前、行き止まり! 壁、壁!」

 あたし、須王と一緒に生きたいんです。
 この先、須王を幸せにしたいんです。

「柚っ、俺に抱き付けっ」

 あたし、なんでもするから!
 だから、どうか助けて下さい――!
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