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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice

「お前だったら、見られると興奮してイキっぱなしだと思うけど?」
「血だらけのひとに見られて興奮なんてしないから!」

 それ趣向も嗜好も違うから。
 あたしノーマルだから!
 
「だったら、血が出てねぇ普通の奴だったらいいんだ?」

 妖艶に揺れる、ダークブルーの瞳。
 真紅を映して、神秘的な紫色のように見える。

 彼の双眸に吸い込まれて、思わず「そう」と言いそうになってしまったあたしは、慌てて頭を横に振った。

「駄目! するのはふたりっきりの時!」
「ああ、早くふたりきりになって、したいって? 本当に可愛いな、お前」
「ちょ、須王、す……んんんんんっ!」

 血だらけで。
 パンクした車の中で。
 こっちを向いているホラーなひともいるというのに。

 情熱的なキスをしてくる須王も須王だけれど、感じてしまったあたしもあたし。

 だけどそれこそが須王流の、あたしの落ち着かせ方で。
 そしてあたしも落ち着いてしまって。

「よし、出るか。怪しい奴もいなさそうだし。後で救急車を呼んでおこうか。その前にどこぞの怪しい集団が回収にくるかもしれねぇが」

 切れ長の目は、怜悧な光が宿っている。
 どんな時でも須王は、ちゃんと状況確認をしていたというのに、あたしはキスに夢中になっていただけだと思うと、ずぅぅんと落ち込んだ。

「裕貴の学校に向かおう」

 だがその言葉に、落ち込んでいる暇などないことを悟る。

「わかった」

 棗くん、あたしと須王が行くからね。
 女帝も心細いだろうけれど、もう少し待っていてね。
 (おまけに)裕貴くんも、待っていてね。

 頼りないあたしだけれど、今度こそ役に立てるように頑張る!
 
 
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