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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
タクシーは恐ろしい乗り物だったと知ったあたし。
だからすぐに目的地まで、公共機関で……とは、ならなかった。
「俺もお前も血糊べったりなスーツだ。そんなのが歩いてみろ、ゾンビどころの話じゃねぇぞ」
上着を脱いでも血の飛沫痕は、白いシャツにまで及んでいる。
それでなくとも須王は有名人だ。
眼鏡をかけたとしても、こんな格好で歩いているのがばれたら、マスコミの餌食になってしまう。
少なくとも、トマトケチャップをこぼしてお散歩……とは書かれないだろう。
「レンタカーを借りる手もあるが、借りた時の形状のままで返せる保証もないしな……。爆発なんかしたら、その保証がいちいち面倒だし」
さらりと。怖いことを呟いた須王。
その頭の中は、凄まじいカーアクションの末の惨状が映っているのだろうか。
それは結構、のーさんきゅー。
「監視がついているのを懸念して、服を替えた方がいいな。てっとり早く、そこらへんの店に入って、走りやすいものにしよう」
……なぜ、走る必要があるんですかね?
「ここにするか。本当なら柚に脱がせやすいドレスを買いたかったが、それはまたの楽しみで」
……なぜ、脱がせやすいという条件が加わるんですかね?
「須王が買わなくていいよ。服くらいあたし、買えるし! あ、あのマネキンが着ているのがいい! あの色がいいわ!」
紺色ならあまり汚れもわからないし、ああいうカジュアル服ならきっと、お手頃価格なはず。
今、手持ち金は……。
「お前……本当に不意打ちで可愛いことしてくるよな。これ以上、俺の色(ダークブルー)に染まりたいのかよ」
なにかぶつぶつと聞こえて、あたしは須王を見た。
「あ、ごめん。考え事してた。もう一回言って?」
「いや、いい」
なんで須王、照れているんだろう。
不思議に思うあたしは、視界に飛び込んだその価格に目を見開く。
……桁が違った。