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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
「それくらいキャッシュで買えるから気にするな」
「どれだけ持ち歩いてるのよ!」
「いつ、口座が凍結されて引き出せなくなるかわからねぇからな。カードだったら、居所もばれるかもしれねぇし」
単なる金持ち自慢ではなかったようだ。
ごめんよ……。
「ねぇ、もっと安い別のところに……」
「時間がない」
須王はあたしをずるずると引き摺って中に入る。
こうなったら須王は、立ち止まる男ではない。
代金は後で分割にして貰おう……。
あたしがケチャップをぶちまけたせいにして、笑いながら彼自身の服を選ぶのが数分。
そして、慌てて試着室で着替えている間に、既に着替え終わっていた須王が現金で支払って終了。
着ていたスーツはお店で捨てて貰うことにした。
鉄の臭いがすると思うけれど、須王はケチャップの臭いだと言いくるめ、消臭剤をかけて始末してくれることになった。
……さようなら。
このシャツより安かった、特売スーツ。
服を買うと決めてから、十五分もかからず退店し、あたし達は小走りで駅に向かう。
タクシーは逆方向に走ったけれど、ひとつの線で裕貴くんの学校に向かえることが不幸中の幸いだった。
あたしは紺と白のボーダーシャツに、デニムに見えるけれど光沢ある紺色生地のロングスカート。
そして須王は、紺色のカットソーに薄グレーのカーディガンを羽織り、白いデニムのズボン。
狙ったかのようなペア感漂う色合いながら、それをモデルのように昇華出来るのは須王のみ。
眼鏡なんてかけちゃって、どこぞの芸能人気取りよと文句も言いたい気分になったけれど、芸能人以上の美貌の持ち主の有名人だ。
ダークブルーの瞳と髪。
それに合わせた服は、まさに須王のためにある。