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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
あたしがため息をつきながら電車の手すりにつかまると、隣に座る須王が顔を覗き込んでくる。
「どうした?」
「……なんかあたし、推しの色合いを真似ただけの、ただのミーハーのファンな気がして」
「は?」
「本物と偽物の差がなんとも……はぁ」
再びため息をつくと、須王があたしの頭を撫でて自分の胸に引き寄せた。
「なにごちゃごちゃ考えているのか知らねぇけど、俺の色に染まろうとするお前はぐっとくる」
「……っ」
「今度、柚色で揃えてみる? 俺をお前の色に染めてみせろよ」
熱っぽいダークブルーの瞳。
あたしの胸がとくんと鳴った。
「それは駄目」
「どうして?」
あたしは須王の服を握りしめて言った。
「須王の色を変えたくない。あたしの色を変えたいよ、違和感を覚えることなく」
すると須王はくすりと笑って、親指であたしの下唇を撫でた。
それだけで須王がキスをしたがっているのがわかる。
あたしを見つめるダークブルーの瞳が、熱に潤み、濡れている。
吸い込まれるように距離が縮まると――ドアが開く。
駅に着いたのだ。
そのタイミングのよさに、あたし達は笑い合った。
スマホのナビを頼り、学校へ向かう。
ここらへん一帯は、大学や医療機関などが充実しているようだ。
「ねぇ、須王。あのタクシーの運転手だけど、突然喉から血を吹き出したのは、やはり無理な歌が原因なのかな」
「恐らくは。声帯に無理がかかって裂けたか。あの運転手の歌声は訓練されているようなものでもなかった。ファルセットも出来ていなかったし、まるでど素人だ。そして仰け反った時に見た喉は、手術痕はなかったから、外部的になにかを埋め込まれて、遠隔的に反応した……というのではないだろう、多分」
あたしなんて、わたわたして手術痕がどうのなんて確認すらしていなかった。