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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
「あの運転手は、別に鍛錬されている様子もなかった。したことは、逆方向に進んで歌を歌い出して、運転放棄をしただけで」
「そうだね。銃でズドンという危険性はなかった。ゾンビになってガクガクもなく。でもどうしてあの歌だったんだろう。違うものでもいいのに。不気味さは変わらないし」
「俺には喉から血を流して瞋恚の歌を歌わせるということで、病院での頭を強調させたのではないかと思った。それはつまり、俺達の動きはわかっているという主張でもある」
須王は空を睨み付けるようにして言った。
「でもさ、あたし達があのタクシーを選ぶ確率って凄く低いよね。別に乗ってとアピールされて乗ったわけじゃないのに。もしあのタクシーに別のひとが乗っても、それでもああやって血だらけに暴走しちゃってたのかな? そうしたら無差別になるよね……」
「俺もそれを疑問に思っていた。無差別なら、タクシーはとうに此の世から消えている。恐らくは、俺達以外にはまともなんだろう」
一体、どこで判断しているんだろう。
あたし達、指名手配されているの?
「でもタクシー、前に須王とふたりで乗ったこともあったけれど、大丈夫だったよね?」
「ああ。となれば今、か。それにもし俺達が違うタクシーに乗っていても、同じことが起こりえるのなら、東京中……もしくは日本中のタクシーは敵だということになる」
そ、それは怖い。
「現在進行形で、どうやって組織が介入しているのか……。病院の強調だけにしては、あまりにも大がかりすぎる」
「そうだよね。ここから見えるだけでも、タクシーはあんなにたくさん走っている。そのすべての運転手さんが、喉を裂くまで歌を歌い続ける運命なんて、可哀想過ぎるし」
「……そしてなぜか裕貴の学校とは反対に進んでいたこともひっかかる。どこで拾ったとしても、同じ方向に進むようになっていたのか?」
あのタクシーだけ特別なのだろうか。
だとすれば、よく偶然にあたし達を拾えたものだ。