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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
「いつも以上だな。どうした、棗。俺だぞ?」
青白い顔。
血走った目。
それは怯えているようにも見える。
須王はハンカチを取った。
すると棗くんは、まるで動物のように須王の首に噛みつく。
ああ、まるでゾンビだ。
手島さよりのようだ。
「須王!?」
「俺は大丈夫。棗、ここは……組織じゃねぇ。あの悪夢は終わったんだ。お前は、自由なんだぞ」
諭すような優しい声。
それでも棗くんは須王の首に噛みついたままだ。
「思い出せ、棗。俺達は、いつも一緒だっただろう? 敵じゃねぇから」
須王は棗くんの背中を撫でる。
「もう、なにも……お前から奪われない」
棗くんの目から涙が溢れ、流れ続ける。
「俺がお前の背中を守る。お前は……俺の背中を守ってくれるんだろう?」
棗くんの目がぶれて、あたしと目が合った。
棗くんの瞳に、なにか懇願するような光が揺れる。
棗くんがなにかを訴えている。
怒りのように強く。
それがなにかわからないあたしは。
須王と棗くんの間に入っていいのかわからないあたしは。
ただ涙を流した。
苦しかったね。
辛かったね。
もう、棗くんの怖いことは起きない。
須王を信じて。
あたしを信じて。
棗くんの仲間を信じて。
「棗、大丈夫だ」
棗くんがあたしに手を伸ばした。
助けてって言っているのだと思い、あたしも手を伸ばした。
だが――。
掴まれた腕には、爪が立てられた。
引き千切ろうとしているかのように強く。
それは激しい怒りだ。
瞋恚だ。