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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
焦る須王に、あたしは宥めるように優しい口調で言う。
「……か、どうかわからないから、確認しに行ってくる。だから須王は棗くんを……」
「アホか! 三芳を呼べ!」
一喝されたあたしは車から離れていた女帝の名前を呼んで走り、女帝の手を掴んで駆けてくる。
ちょうど須王は、ぐったりして意識がなくなっているみたいな棗くんをお姫様抱っこして、後部座席に乗り込んでいるところだった。
後部座席で棗くんをひとり寝かせるつもりかと思えば、そのまま須王も座り、戻って来たあたし達……厳密に言えば女帝に言った。
「三芳。どこからの火事か、わかるところまで運転してくれ。単独で行動するな。柚は危ないから俺の隣に……」
女帝が頷いた時、あたしは片手を上げた。
「あたしが運転する!」
すると須王も女帝もぎょっとした顔をした。
「それくらいなら、あたしだって運転出来るし!」
あたしがいるのに女帝に頼る須王にカチンときた。
須王に対してというより、自分の不甲斐なさに対して。
結局あたしは役立たず。
なにも出来ないただのお荷物。
……それがどうしても許せなかった。
守られるばかりではなく、もっと仲間としても頼られたい。
特にこんな緊急事態には、あたしにだって役割が欲しい。
あたしだって、成長しているところを見せたい。
そう強い意志に燃えて、無理矢理、運転席に乗ったのだけれど。
……出来るのなら、時を戻してこの時のあたしに言ってやりたい。
あんた、バカだよって。