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青い残り火
第8章 第8章
一馬は振り向くわけでもなく、けれど真っ直ぐな視線は芽衣を見ているでもなかった。

「一馬」

呆けた顔で視線が泳いでいる。

「一馬ったら!」

「えっ……」

「ぼんやりしないでよ、今の人だれ?」

「あ、あぁ、バイト先のお客さん。常連なんだ」

一馬はそう言うと、握っていた空のグラスを口に運んだ。

「あ……」

「やだ落ち着いてよ、どうしたの?」

「やばっ、バイト行かなきゃ、遅刻だ。ここ俺が出すから」

「大丈夫、私持ってるから」

オーダー票を掴んで立ち上がる一馬に、芽衣は訊きたいことがたくさんあった。

客がなぜ親しげに彼の名を呼ぶのか
なぜ一馬があの女に連絡できるのか
理恵子とは誰なのか
そしてなぜ、彼女はあんな風に一馬に触れたのか……

客でしょ?
ただの……

「ごめん芽衣、またな」

「ちょっと、一馬……」

急ぐ彼を追い掛ける気力も、引き留める言葉もなかった。


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