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青い残り火
第9章 第9章
A棟を出た所で立ち止まり、資料を確認している彼女の姿は富田からは見えない。先に話しかけようと二三歩下がった一馬は、自分が作った水溜まりに足を突っ込んでしまった。

「うわっ」

慌ててたところに西崎が近付いてくる。

「あ、先生、こんにちは」

「……こんにちは」

一馬の足元を見た西崎は、はっとした表情でその顔を上げた。

「藤村さん、靴……」

眼鏡が邪魔だな、と一馬は思った。でもライバルが増えるからそのままでいい、と思い直した。

「……ははっ、暑いですね今年の夏は」

せめてその前髪を、この指でそっと横に流せたなら……

上げかけた右手が拳を握った。
あとからきた同僚達に越されていく西崎は、一馬の視線をかわして彼の後方を見た。

「西崎先生、そっちは濡れますからこっちからどうぞ」

富田が顔を出し、水溜まりのない路面を指差した。

あの野郎……

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