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青い残り火
第4章 第4章
髪からつたい落ちる水滴が眼鏡のレンズを濡らしている。シャツの上に纏った薄手のロングベストは右肩から裾まで、更にその下のスカートまで放水の餌食になっていた。

一馬に気が付いた西崎は息を吹き替えしたように「はっ……」と一呼吸し、右手に持った国語辞典の無事を確かめた。
ケースに入っていないその古ぼけた辞典は、小豆色の表紙はもちろんの事、五十音順の印が付いた小口まで被害にあっていた。
その分厚い背表紙辺りを持ってパタパタと振り、取り出したハンカチで水を拭き取ろうとする西崎。

いやいや自分の顔を拭くでしょ普通……

一馬は切羽詰まった西崎の様子に呆れ、携帯でバイトの時間を確認した。

「先生、それより顔拭けば? 見えるの? その眼鏡で」

「あ……」

辞典を脇に挟んだ西崎は、ハンカチで前髪を軽くかきあげ、眼鏡を外してレンズを磨きだした。

「それ持ちます」

一馬が辞典に手を伸ばすと「あ、いいのこれは」と一歩退いて彼を見上げた。


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