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青い残り火
第4章 第4章
「え……」
目の前の西崎だけを残し、周囲の景色が色を失った。空にかざしてレンズの曇りを確かめた彼女は、眼鏡を掛け、前髪を整えて目の半分を隠し、再び辞典を手に乗せた。 そして、その薄いページの一枚一枚をひらひらと風になびかせるのだった。
「……あの、俺、バイトがあるんで……」
喉の奥が震えていた。
「あぁ、はい、がんばってください」
彼はそこに居たかった。
「あの、たぶんそれ、乾いてもよれよれだと思うから買って返します」
「えっ、……いえ、いいんです。気にしないで、バイトがんばってください」
彼女は辞典を見ながら言った。
「先生」
「……」
「西崎先生……」
「え……、ごめんなさい。はい」
顔を上げた西崎の頬を、涙のような水滴が流れ落ちた。
「あ、いえ、あの、……すみませんでした」
「えぇ、大丈夫です」
「失礼します」
服は濡れたままだった。髪も乾いていなかった。何度も振り返る一馬を切り離し、彼女はずっと佇んでいた。西日が背中を熱く照らすまで。
目の前の西崎だけを残し、周囲の景色が色を失った。空にかざしてレンズの曇りを確かめた彼女は、眼鏡を掛け、前髪を整えて目の半分を隠し、再び辞典を手に乗せた。 そして、その薄いページの一枚一枚をひらひらと風になびかせるのだった。
「……あの、俺、バイトがあるんで……」
喉の奥が震えていた。
「あぁ、はい、がんばってください」
彼はそこに居たかった。
「あの、たぶんそれ、乾いてもよれよれだと思うから買って返します」
「えっ、……いえ、いいんです。気にしないで、バイトがんばってください」
彼女は辞典を見ながら言った。
「先生」
「……」
「西崎先生……」
「え……、ごめんなさい。はい」
顔を上げた西崎の頬を、涙のような水滴が流れ落ちた。
「あ、いえ、あの、……すみませんでした」
「えぇ、大丈夫です」
「失礼します」
服は濡れたままだった。髪も乾いていなかった。何度も振り返る一馬を切り離し、彼女はずっと佇んでいた。西日が背中を熱く照らすまで。