この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
青い残り火
第6章 第6章
二人が窓から消えると、他の生徒に混じって一馬の横顔が見えた。
「かず……」
慌てて口を押え、気になる彼の視線を辿る。三島は水呑場で手を洗っている。女の子達は彼がB棟に入って行くまで見守る筈だ。だが、一馬の視線はそこにはなかった。
B棟の正面、C棟へと向かう神谷を追ってもいなかった。彼はひとり、C棟の出入り口近くに立つ銀杏の木をじっと見ていた。
夏の日差しを受けて、青々と葉が茂る背の高い木。その下に西崎澪がいた。彼女は、前を通り過ぎる神谷に会釈している。
「え……、なに、辞書? …………ははっ」
それは嘲笑だった。神谷と西崎の様子が、麗しいお嬢様と召し使いのように見えて仕方がない。
"ご苦労様"
"いってらっしゃいませお嬢様"
そんな台詞が聞こえてきそうだ。
「ふふっ、その辞典、重くないの? 」
銀杏からセキレイが二羽飛び立ち、花壇の間を駆け回っている。
あれを見てたのか
振り向くと一馬の横顔は消え、無人になった中庭に、セミの声が細く響いた。
「かず……」
慌てて口を押え、気になる彼の視線を辿る。三島は水呑場で手を洗っている。女の子達は彼がB棟に入って行くまで見守る筈だ。だが、一馬の視線はそこにはなかった。
B棟の正面、C棟へと向かう神谷を追ってもいなかった。彼はひとり、C棟の出入り口近くに立つ銀杏の木をじっと見ていた。
夏の日差しを受けて、青々と葉が茂る背の高い木。その下に西崎澪がいた。彼女は、前を通り過ぎる神谷に会釈している。
「え……、なに、辞書? …………ははっ」
それは嘲笑だった。神谷と西崎の様子が、麗しいお嬢様と召し使いのように見えて仕方がない。
"ご苦労様"
"いってらっしゃいませお嬢様"
そんな台詞が聞こえてきそうだ。
「ふふっ、その辞典、重くないの? 」
銀杏からセキレイが二羽飛び立ち、花壇の間を駆け回っている。
あれを見てたのか
振り向くと一馬の横顔は消え、無人になった中庭に、セミの声が細く響いた。