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青い残り火
第7章 第7章
小走りで路地に出た一馬は、女の部屋から逃げたしたのはこれで二度目だ、と息を切らせながら思った。

真琴さんはあれからどうなっただろう
彼女は人を好きになったことがあるんだろうか……
ないな、たぶん
俺と同じ
……同じ?

見上げた空に月はなく、街灯が細かい雨粒を照らしだした。

「雨……」

眼鏡を拭く西崎澪が見える。その瞳、あの時の風、陽の光と草の匂いを、彼は一枚の絵のように思い描ける。

教卓に置かれた国語辞典は元には戻らなかったようで、ページが波打っているのがはっきりとわかった。だが一馬以外の誰も、そんな事には気付かなかった。
それでも手放さずに持ち歩くのは、彼女にとってそれは大切なお守りだからだろうと考えた。
それを台無しにしてしまったことは大失敗だったけれど、話し掛ける口実にはなると、機会を伺ってもいた。

「胸が痛くなるほど、誰かを好きになったことある?」

美弥の声が聞こえる。

「いてぇ……」

一馬は胸を押さえた。

「くそっ、手も足も出ない」


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