この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第5章 いざない
「……もういい、持っていけ。一枚も二枚も同じだ」
「えっ、わっ」
仕方なくあの時と同じように羽織を頭の上から被せてやれば、今度は子龍の方から抗議されるような声が浴びせられる。
「なーに三人でじゃれてんだよ、ふざけて海に落ちるなよ。んじゃ俺先頭で、次が神依な。落ちたら孫に拾ってもらえよ」
「は、はい」
そうして竿を動かす猿彦を先頭に、神依、日嗣と緋色の雲海に浮かぶ三人の影。
雲海の主は慣れたように先を行くが、初めて石を渡る神依はやはりおっかなびっくりでその距離も少しずつ開いていく。猿彦の歩幅もまた、彼女には辛そうだった。
何度も何度も足元を確かめながら次の石に移る神依に、日嗣が声を掛ける。
「──神依」
「あっ──はい!」
「名を呼ばれたと言っていたが……その名を呼んだ誰かは、他に何か言っていたか?」
「えっ……どうしてですか?」
神依は足を止め振り返ると、困ったようにうつむき……まるで時が止まったかのように微動だにしなくなった。
そこへ足元に寄せる雲海の水がぱちゃりと跳ね、二人の間を花の香を混ぜた風が通り抜ける。
それから少しの時を置いて、“少女”は──顔を上げ、口を開いた。
「……を」
「……?」
「恋を、しなさいって」
.
「えっ、わっ」
仕方なくあの時と同じように羽織を頭の上から被せてやれば、今度は子龍の方から抗議されるような声が浴びせられる。
「なーに三人でじゃれてんだよ、ふざけて海に落ちるなよ。んじゃ俺先頭で、次が神依な。落ちたら孫に拾ってもらえよ」
「は、はい」
そうして竿を動かす猿彦を先頭に、神依、日嗣と緋色の雲海に浮かぶ三人の影。
雲海の主は慣れたように先を行くが、初めて石を渡る神依はやはりおっかなびっくりでその距離も少しずつ開いていく。猿彦の歩幅もまた、彼女には辛そうだった。
何度も何度も足元を確かめながら次の石に移る神依に、日嗣が声を掛ける。
「──神依」
「あっ──はい!」
「名を呼ばれたと言っていたが……その名を呼んだ誰かは、他に何か言っていたか?」
「えっ……どうしてですか?」
神依は足を止め振り返ると、困ったようにうつむき……まるで時が止まったかのように微動だにしなくなった。
そこへ足元に寄せる雲海の水がぱちゃりと跳ね、二人の間を花の香を混ぜた風が通り抜ける。
それから少しの時を置いて、“少女”は──顔を上げ、口を開いた。
「……を」
「……?」
「恋を、しなさいって」
.