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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第2章 神隠しの行く末
 ただ──
「でも……猿彦さん。最初に、大丈夫かって声を掛けてくれたの、猿彦さんですよね。だから、最初はびっくりして……怖かったけど。今は怖くはないです。あの、ありがとうございました」
「あー、そうだったか? ──まあとにかく、元気になったらまた顔見せに来いよ。その頃にはお前も良い名前貰ってんだろ。ちゃんと字で覚えて、教えに来るんだぞ」
「あ……」
 そこでようやく、少女は自身が誰であったか──知らないことに思い至った。以前は誰かに、どこかで、何かの名で呼ばれていた気がする。しかし今は……知らない。
「名前。……私の名前?」
目をぱちくりとさせ、きょとんとした様子の少女に、猿彦は「生まれたばっかだからな」と軽く笑い、少女はその言葉を受け入れ頷いた。
 一方日嗣は変わらず、黙したままそのやり取りをずっと眺めている。
 少女は最後に何か言葉を交わしたかったが、恥ずかしい気持ちもあるし、何だかとても申し訳ない気持ちもある。
 結局言葉が見付からず視線だけ交わしてぺこりと頭を下げれば、それに倣うように禊もまた一礼して踵を返した。

***

 そして残された二人はその背が見えなくなるまで見送り、再び波音だけになった空間で日嗣はふと思う。
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