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あの口づけは嘘じゃない。
第1章 序章
あの人との出会いは、偶然だった。
「いやっ!離して!いやぁっ!!」
「うるせぇ!こんな真夜中に出歩いてるってことは襲われるの待ってたんだろ?気持ちよくしてやるよ!ほら付いて来いよ!…って、うわ、なんだてめぇ?!」
「この子の彼氏だよ。その汚い手、早く離せ。人のもん勝手に触るな!」
「…ちっ。」
私を掴んでいた忌まわしい手に変わって、あの人の長くて綺麗な手が私を包み込む。
「…はぁ、怖かったよね。もう大丈夫だよ。」
「…あ、ありがとうございます。」
知らない人なのになんでこんなに安心するんだろう。この声をずっと待ち焦がれていた気がするのはなんでなんだろう。
今でも…今でもその理由はわからない。荒んだ心が、誰かの優しさを欲していただけなのかもしれない。
ただ、これだけは言える。
あの日、黒のスーツに身を包んで、月の光のような繊細で美しい声で私を助けたあの人は、本当に、本当に…素敵だった。