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月光の誘惑《番外編》
第2章 月下の桜(二)
もったいないなんて思ったこと、ない。女から俺を追いかけてくるんだから。俺から女を追いかけるなんて。
……あぁ、だから、圧倒的に経験値がないのか。
だから、「もったいない」のか。
もっと、女と向き合っていれば良かったのか。
そうすれば、女心とやらが少しは理解できたのかもしれない。
「……そうか、もったいなかったなぁ」
ヴヴと震えたスマートフォンに、ポップアップ。
『ごめんね、今週は別の人と会うから。またクリスマスイブに会おうね』
……遅かったか、先約済みか。
溜め息をついて、洋介を睨む。睨まれた洋介は「え、俺のせい?」と慌てる。
「わかったよ、とりあえず、長く付き合えるよう頑張ればいいんだろ」
「お、おう。翔吾にしては素直だな」
「俺はずっと素直だっての」
『じゃあ、明日はどう?』
食い下がるなんて、みっともない。わかっている。
でも、会えるなら会いたい。
クリスマスイブまで待てない。
イルミネーションがキラキラしている通りを、一人で歩きたくない。あかりと歩きたい。
『明日なら大丈夫だよ。時間は六時以降で、翔吾くんが決めて』
がっついている、と思われているだろう。きっと、苦笑されているだろう。
それでも、いい。
スマートフォンに電話帳を起動して、次はあかりに何を食べさせてあげようかなと考える。彼女は時間があれば家でご飯を作る人だ。あまり高級な店では食べたことがないと言っていた。
だから、予約した店でご飯を食べて、そのあとセックス。
それでいい。それがいい。
時間をかけて、あかりを知り、俺を知ってもらおう。
そうしたら、少しは、付き合うのを考えてくれるだろう。
……たぶん。