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月光の誘惑《番外編》
第2章 月下の桜(二)

「桜井くん、ちょっと」
「どした、杉田」

 あたりをキョロキョロ確認しながら、学園からの同級生が柱の影から手招きする。
 講義の合間に移動している最中だ。寒いから早く棟内に入りたいんだけど、杉田の表情が晴れやかでないのが気になった。

「あ、誕生日プレゼント、つけてくれているんだね、ありがとう!」
「あー、うん、ありがと」

 十月の二十歳の誕生日にバースデーベアとやらをくれたのは、そういえば、杉田だった。
 手作りらしくちょっと大きめだが、リュックサイドのペットボトル入れにちょうど収まるサイズだった。
 俺の好きなサッカーチームのユニフォームを着たクマは、デザイン的にも邪魔にならないからそのまま入れっぱなしになっている。

「……あのさ、桜井くんの評判がものすごく悪いんだけど、何かあった?」
「あぁ……元カノから恨まれているからなぁ」
「やだ、噂流されてるの? 最悪だよ? 学年中の、特に外部からの女子から嫌われてるよ?」

 別にいいし。むしろ、うるさい虫が減ってせいせいしてるし。

「いいよ。言わせておけば」
「でも」
「ありがと、杉田。心配してくれて。でも、俺と話していたら杉田にも迷惑かかるだろ。誰かに見つかる前に、逃げなよ」

 白い息を吐きだして、杉田は憐れみの視線を寄越す。
 わかってる。俺が一番わかってる。これは、俺の自業自得なんだ。因果応報なんだ。女に対して真剣になれなかった俺が悪いんだ。

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