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月光の誘惑《番外編》
第1章 月下の桜(一)

「ほんと、大丈夫ですって!」
「いやいや、それじゃ俺の気がおさまらないから!」
「いいんですよ。来月には機種変更をしようと思っていましたし!」
「機種代くらいは支払いますから!」
携帯ショップに入るまで、いや、入ってからも、ずっとこの調子だ。
人にぶつかって携帯電話を落とし、そのまま自分の足で思い切り蹴ってしまったという女は、無惨に壊れたケータイを見て、我に返ってこう言ったのだ。
『すみません、私の不注意で! 足、怪我していませんか!?』
申し訳なさそうに頭を垂れる彼女を見た瞬間に、俺は決意した。機種変更代金くらいは支払おう、と。
「なんか、みんな薄くて大きいですね」
「最近はスマホばかりですから」
「ケータイは……お年寄り向けのものでしょうか?」
「若い人はほとんどスマホですよ」
ディスプレイされたモックと、現物を触りながら、彼女は「よくわかりません」と唸る。
機種変更したほうがいいと店員に言われて、とりあえず店内のディスプレイを見に来たが、手に取って「へぇ」と言うだけで、どれが気に入ったと言うわけではない。
「これは最新機種。カメラの機能がいいですよ」
「写真はあまり撮らなくて」
「こっちは容量が多くてアプリを入れやすいです」
「アプリ? ソフトウェア?」
「みたいなものです」
うぅんと悩んで、彼女は縋るような目で俺を見つめてきた。うん、だから、そんな目を向けられても。

