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月光の誘惑《番外編》
第1章 月下の桜(一)

「あなたが持っているスマホは?」
「半年前に出たやつで……あ、これです」

 少し端に寄せられたモックを手に取り、彼女に手渡す。教えた通り、画面に親指を滑らせている。片手で操作できそうだ。

「じゃあ、私もこれにします」

 彼女は頷いて、店員にモックを持っていく。在庫があると聞いて、嬉しそうだ。

「色はこの青でいいですか? 他にはピンクと赤とゴールドがありますが」
「あなたのは何色ですか?」
「青です。赤がいいと思いますよ」
「じゃあ、赤でお願いします」

 自分で色くらい確認してみたらどうかと思ったけど、彼女には興味ないのかもしれない。
 確かに赤は似合いそう……いや絶対暖色系は似合うんだけど、出会ったばかりの男を信用しすぎだ。

 店員から「アクセサリーを見ていてください」と言われ、彼女はひょこひょこと戻ってくる。満面の笑みだ。

「お揃いですね」

 モックを戻しながら、再度、彼女は俺に笑顔を向けた。

「嬉しいですねぇ」

 思えば、このときだ。
 本当に、心底嬉しそうに俺を見上げてきた彼女に、恋に落ちたのは。

 そして、それは、俺の、苦難の始まりだった。

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