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月光の誘惑《番外編》
第2章 月下の桜(二)
『身の回りで変なこと? ないよ、大丈夫』
あかりの勤める会社に怪文書などは出回っていないらしい。ホッとすると同時に、標的は俺なのだと再認識する。
そうだ。標的は俺。恨まれているのは、俺。
「なに、話って?」
気だるげな、迷惑そうなその声音。モノが欲しいときだけ、甘く囁いてくる、女の声。
緩く巻いた明るい長い髪は、あかりの黒くて真っ直ぐな髪とは違う。派手なネイルをし、目が大きくなるカラコンをした、今どきの女子大生が目の前に座る。相変わらず、冬なのに露出度の高い服を着ている。
「今さら復縁しようったって、遅いんだからね」
ムッスリした表情の由加に、苦笑する。大丈夫、そんな色のある話じゃないから。
大学からは少し離れたチェーン店のカフェで、由加と待ち合わせていた。元カノと二人で会うのは久しぶりだ。
「単刀直入に聞くけど、この写真、何?」
由加は俺のスマートフォンの画像を見て「何、これ?」と眉をひそめた。そして、画像の中の俺とあかりに気づき、「へぇ!」と明るく声を上げた。
「また女ができたの? 良かったじゃん!」
「……」
「でも、どうせ遊びなんでしょ? カノジョ、知ってるの?」
「……知ってる」
「ま、カノジョが本気にならないように気をつけておけばいいんじゃない?」
この段階で、由加が関与していないことは明白だった。彼女はどう見ても「元カレの恋愛話を楽しんでいる」のだ。
「え、何? 私にわざわざノロケるために呼んだわけ? やだ、最悪なんだけどそれ」
「この写真、隠し撮り」
「やっだ、私を疑ってんの? やめてよ。私、ストーキングなんてしないよ。だって、私もカレシできたもん。ほら、カッコいいでしょ?」
……これは完全にシロだ。スマートフォンから二人の自撮り写真を見せられて、げんなりする。
イルミネーション輝くクリスマスツリーの前で、頬を寄せ合っている元カノと相手の写真なんて見たくはなかった。ちょっと複雑な気分だ。