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月光の誘惑《番外編》
第2章 月下の桜(二)
大学の帰り、イルミネーションに彩られた街を行く。あれほど目に入っていた幸せそうなカップルは、もう全然気にならない。気分が悪くもならない。
ショーウインドウに飾られた服やアクセサリーをぼんやり見つめながら、あかりに似合いそうなものを探す。
ネックレス? シンプルなものなら仕事中につけてくれるだろうか? ピアスホール、は開いていないし、イヤリング、もつけそうにない。指輪なんて以ての外だ。
化粧品や香水にも興味はないだろう。あかりはネイルすらしていなかった。美容には無関心なのだ。
下着のサイズも靴のサイズも知っている。でも、さすがに出会って一ヶ月もたっていないのに、下着を贈るのは難しい。
あ、ニットのワンピースは似合いそう。あかりは寒がりだから、暖かいものがいいかもしれない。マフラーとか、手袋とか……って、高校生カップルか、俺たちは。
あかりのことを考えるだけで、ニヤニヤしてしまう。そんな自分がショーウインドウに映って気持ち悪い。心底気持ち悪い。
しかし、ふと立ち止まった店のショーウインドウの中に、目を引くものがあった。
物欲のない女へのプレゼント。長く身につけてもらえそうなもの。
「あれで、いいか」
妥協ではない。二人にしかわからないものだ。
クリスマスカラーのラッピングをしてもらって、店の外に出る。肌を掠める風は冷たいが、俺の気持ちは少し暖かい。
たぶん、こんな安物でも、あかりは喜んでくれる。その笑顔を独り占めできる瞬間を期待して、浮かれた気分で帰路につく。
けれど、途中、やっぱり暖かいものを探して、通りと店内をうろうろした挙句、カシミアのワンピースを買ってしまった。ワインレッドは、あかりには似合いそうだ。先日買ったコートにもきっと合うだろう。
あかりを全身コーディネートしたい気持ちを抑えて、駅に向かう。
あぁ、こんなにクリスマスが待ち遠しいなんて、初めてかもしれない。いや、子どものとき以来か。
でも、本当に、待ち遠しい。