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月光の誘惑《番外編》
第2章 月下の桜(二)
「昔の話だろ」
「そう! 昔の話さ! 俺は高嶺の花より、手に入る花が欲しい!」
隣に座った洋介もかなり酔っている。「手に入る花」は杉田か? 洋介は杉田をめちゃくちゃ見てるけど、杉田はカルパッチョに夢中で気づいていないぞ。
何だ、この茶番。
「私もクリスマスまでに彼氏欲しいー!」
「じゃ、俺と付き合う?」
「マジ勘弁」
……なるほど。学園時代から続く片想いとやらを昇華させるための合コン、もとい同窓会なんだな。
ようやく俺は納得する。俺が呼ばれた理由は、ただの数合わせなのだろう。内輪話ばかりになるから、学園外の人間は呼べないわけだ。
「桜井くんは今フリーなの?」
「……フリーっちゃフリーだけど、当分の間彼女はいらないかな」
「え、なんで? 前の彼女とは別れたんでしょ?」
「こいつ、また歳上のおねーさんと遊んでるからな!」
クソ洋介。バラすなよ。
聞いてきた女子の名前すら思い出せないけど、彼女は「ふぅん」と俺を一瞥して、こそりと杉田に耳打ちした。まぁ「噂通りだね」とか言っているんだろうな。女子Aめ。
杉田は女子Aの耳打ちに苦笑して、話を振ってくる。
「歳上のお姉さんとは遊びなの?」
「遊びというか、本気になってくれないというか……まぁ、結婚はしないかな」
「あぁ、桜井くんは会社を継がないといけないからね」
会社を継ぐのは俺でも弟の健吾でも構わないと思うけど、長男の俺が一番可能性が高い気がしている。健吾には夢があるかもしれないけど、俺には今のところ夢なんてないからなぁ。
「そ。どうせ会社を大きくするために、大企業か取引先の令嬢とでも結婚させられるに決まっているからな」
「あ、じゃあ、葵とかいいじゃん」
……葵?
洋介の前に座った女子Aの腕を、真っ赤になった杉田が軽く叩く。