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月光の誘惑《番外編》
第2章 月下の桜(二)

「やだ、もう、みやびったら!」
「葵も社長令嬢だよ。杉田フーズ、だっけ?」
「そうだけど、桜井くんの会社とは規模が全然違うから! 恥ずかしいこと言わないでよっ!」

 杉田の名前、葵って言うのか。初めて知った。彼女が社長令嬢だということも、今初めて知ったけど。
 まぁ、私立の誠南学園にいたということは、ある程度の生活水準だということだ。そんなことに、今さら気づく。

「俺も社長の息子だぜ!」

 そういえば、洋介もそうだったな。しかし、そのアピールも空回りだ。杉田はカリカリチーズに夢中だぞ。

「桜井くんは結婚願望ないの?」

 女子Aみやびの問いに「ない」と即答する。今は、ない。たぶん、三十代か四十代になってからだろうな、結婚は。

「ま、だから元カノにフラれたんだよな」
「うるせえ、クソ洋介。クソ介」
「食事中にやめてよー、二人とも」

 杉田がやんわりと注意してくるので、彼女のことが好きらしい洋介はおとなしくなる。本当にわかりやすいな、こいつ。

「女は付き合いの延長上に結婚があると思っているからねぇ。嘘でも結婚する気があるって言っておかなきゃフラれるわ」
「はあ、まぁ、おっしゃる通りで」

 女子Aみやびの説教を長々と聞く必要はない。「トイレ」と断って、さっさと避難する。逃げるが勝ちだ。戻ったら、違う話題になっているだろうし。

『合コンが同窓会だった。つまんない。あかりと一緒にいたほうが余程マシ』

 メッセージを送ると、既読になってすぐに返事が戻ってくる。あかりは結構律儀なのだ。

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