この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
月光の誘惑《番外編》
第2章 月下の桜(二)
「由加さんは看病したんでしょ?」
「付き合ってるときに、な」
「じゃあ、私と付き合って看病してよ」
酔っ払いはタチが悪い。何で俺が絡まれないといけないのか。本当に面倒くさい。
深々と吐き出した溜め息が白い。
「……杉田、中に入ろう。風邪引いても、俺は看病できな」
「私、まだ桜井くんのことが好き」
「……杉田」
「まだ好きなの! 忘れられないの! 私やっぱり、桜井くんのことが好き!」
潤んだ瞳で見つめられても、どんなに愛の言葉を囁かれても、それには応じられない。
「ありがとう、でも、ごめん」
「私が大企業の社長令嬢じゃないから?」
「違う」
「私が、好きじゃないから?」
「違う。そうじゃない」
そうじゃない。
……じゃあ、何なんだ?
杉田じゃダメな理由。由加でも他の女でも、ダメな理由。
俺は、何で、ダメなんだ?
「私、ほんと、桜井く、こと、好き」
大粒の涙を流しながら、杉田は俺を見上げてくる。「修羅場か?」と、俺たちに気づいた人々は俺たちを避けて去っていく。店の入り口の前で何やってんだか。とんだ営業妨害だ。
「杉田」
「なんで、私、ダメな、の?」
「……」
「私、フツー、だから? あの、人、みたいに、キレイ、じゃない、から?」
わかんねえよ。
普通とか、かわいいとか、綺麗とか、そういう問題じゃない。女の問題じゃない。俺の問題なのだ。